さっきからどうしてもしたくて、でもできなくての繰り返しで、出しては引っ込めて、また出して。自分の指先が求めるのはあなたの大きな手、だった。
仙台と横浜、距離はそれなりにあるけれど、会おうと思えば会えない距離ではない。それを証明するように、小日向かなでの彼氏である火積司郎は仙台から夜行バスを使って横浜を訪れた。久しぶりの再会にかなでの心が弾む。火積もまた同じだったようで、お互いの姿を見つけると自然と頬が綻んだ。
「火積くん!」
「小日向・・・久しぶりだな」
「うん!」
もっと伝えたい言葉があるのに言葉は喉の奥で出ようか出ないか迷っているような、そんな感じがした。急に渇きを覚えた喉は上手く言葉を紡ぐことができない。
すっごい会いたかったの、とかこの日をすごく楽しみにしてて昨日なんてなかなか眠れなかったんだよとか、言いたいことは山ほどある。
だけど、一番言いたいのは。
―――やっぱり火積くんのこと好きだなぁ、の一言に限るだろう。
一緒にいられない分、想いは自然に積もってゆく。電話で話をするにしても限界はあるし、メールを毎日したところで直接会ってしゃべるのとでは全然意味が違うのだ。
「・・・・・・今日はどこに行こうか?」
今日は土曜日と言うこともあって人が些か多いような気がする。少なくても夏の横浜のみなとみらいは見るところも遊ぶところも山ほどあったのだが、秋を迎えたこの場所は少しばかり色を変える。涼しい風が吹いているからなのだろう、人は多くとも夏の土日よりは人が少ないような気がするな、と火積は思っていた。
「俺は・・・どこでもいい。小日向が行きたいところに、俺は行きてぇんだ」
だから行きたいところを言ってくれと火積は言う。かなではそうだなぁと考えあぐねるとある一箇所で志向は止まった。そう言えば夏の横浜では行ったことのない場所がある。できれば好きな人と、と思っていたかなでにとっての絶好のチャンスでもあった。
「じゃあ、ここはどう?」
そうして指を指したのはデパートよりも高い建物であるランドマークタワーだった。
ちょっと入場料が高いかもしれないけど、とかなでは少し懐具合を心配しながら、火積は「気にしなくていい」と一言で片付ける。かなでの希望を取って火積はかなでと共にランドマークタワーの展望台へと足を運んだのだった。地上から何百メートルも遠くにあるこの展望台へと足を踏み入れる。ガラスの外から見える景色に思わずかなでは息を呑んだ。まるで空に浮いているようなそんな感覚さえ覚える。
隣にいる火積もこの眺めを見て満足しているのか、穏やかな表情で外を眺めていた。火積のそんな顔を見ているとかなでも嬉しくなる。何かと自分の思っていることを溜め込んでしまうところがある火積にとって、少しでも安らぐものができたらそれだけでかなでは幸せだった。
本当はすごく優しくてまっすぐな人だから。誤解されがちだけど、すごく優しくてあたたかい、いい人それが火積司郎と言う人。かなではそれを知っている分歯がゆい思いをすることが多かった。
ちら、と火積を見ては少し距離を置く人が多い。それを見て少し悲しい気持ちになるのをぎゅっと手で抑えながらかなではちらりと火積を見上げる。
火積はかなでの視線に気づいていないのか窓の外に広がる景色に目を奪われたままで、かなではじっと火積の手を見つめた。隣のカップルは腕を組んだり、またちょっと離れたところにいるカップルは手を繋いでいる。それを見ていると少しだけ羨ましいと思うのは自然の成り行きで。
(びっくり、するよね・・・・・・)
本当は触れて欲しいと思う。けれど、火積の性格だから難しいのかなぁなんてかなでは少し思ってしまった。だけど、やはり欲張りになっている自分がいるもので、何となく視線を逸らしながら指先を火積の手へと近づけたもののまた引っ込めてしまう。
結局格闘すること十分ほど、結局かなでは自分よりも大きな手に触れられることはなかった。
―――でも、やっぱり、欲を言うなら手を繋ぎたい。
その想いは胸の奥底にあるわけで、かなでが少し地面へと視線を向けていると目の前に手が現れた。びっくりしてかなでははっと顔を上げる。
「・・・・・・これが、したかったんだろう?」
「どう、して・・・・・・」
「ずっと手をみてれば・・・そりゃあ気づく」
「・・・・・・いいの?」
恐る恐る尋ねると照れくさそうに小さく笑って火積はかなでを見つめ、かなではそんな火積の差し出した手に自分の手を絡める。遠慮気味に触れた指先を確かめるように火積はかなでの手をしっかりと握った。
(やっぱり優しすぎるよ、火積くん)
それがすごく嬉しいのだからどうしようもないとかなでは思う。火積はと言うと、素直に自分へと手を預けるかなでの態度が嬉しかったし、何よりも笑顔を見ることが出来たのが一番の嬉しさだった。
いつになく満たされる幸福感。
手を繋げば伝わる体温。
そのあたたかさは幸せのあたたかさで、胸の奥がちょっとだけこそばゆく感じた。火積はいつだってかなでの欲しいものがわかってしまう。まるでエスパーみたいだと言うと火積はそんなことねぇとぶっきらぼうに返した。
「ありがとう、火積くん」
「・・・・・・いや、俺のほうこそあんたに感謝してるんだ」
こんなにたくさんの幸せをくれるかなでが、自分と一緒にいて笑ってくれる彼女だから。
手を繋いでわかる幸せ。いつもは離れ離れの二人だから余計に満たされる気持ち。
いつだってあなたがいることで得られる幸せがある。
たとえばこうやって手を繋いだりとか。
一緒にいられることの幸せを感じながら火積が微笑むと、かなでは満面の笑みで返した。
恋人達の幸せな時間はゆっくりと時を刻んでゆく。
終