長いようで短い夏休みが終わろうとしていた。
この夏はずっとひたすらヴァイオリンを弾いていた気がする、と小日向かなでは思う。
そして、予想もしなかった『好きな人』との出会いもあった。
それが今、隣にいる人の存在。
「・・・・・・星、きれいだね」
「ああ・・・そうだな」
思わず目を細めて夜空を見上げる彼――火積にかなでは小さく笑いながら見つめていた。かなでの視線に気づいたのか火積は「どうしたんだ?」と尋ねる。
「なんか、こうやって火積くんと一緒に星見られるのってうれしいなって思って」
「そういう・・・もんなのか?」
「うん。だってこんな機会、なかなかないでしょ」
えへへ、と笑いながらかなでが言うと、火積は苦笑いを浮かべて小さくため息を吐いた。
いつも予想しないことをかなでは口にする。
外見上、どうしても目つきは悪いし、額に傷が入っているからどうしても怖がるのに、かなではそんなことを気にかけるわけでもなく、自分に話しかけてきたのを覚えている。
まぁ、水嶋が一緒にいたせいもあるだろうとは思うものの、不思議で仕方がなかった。
「なぁ、あんたは・・・・・・いや、いい」
「? 火積くん、どうかしたの?」
「いや、何でも・・・・・・」
「途中で会話が途切れちゃうと気になっちゃうよ。何? どうかした?」
火積は一瞬躊躇したものの、諦めたようにかなでを見据え、尋ねる。
「怖がらずに話かけてきたのはあんたが初めてだったんだ。・・・・・・どうしてだろう、と思ってな」
「ああ、そっか」
ぽん、と手を軽く叩いてかなでは笑う。謎が解けたと言わんばかりに明るい笑顔を見せた。
「なんだ、そんなことかぁ。不思議だった?」
「ああ。大抵のヤツはビビる」
きっぱりと答える火積にかなでは苦笑いを浮かべた。確かにそうかもしれないと思ったのは、かなでの幼馴染である響也がビビっていたから。
「驚かないって言ったらうそになるよ。でも、あまりそこは気にならなかったかな。どんな人なんだろうって思ったけどね」
ぼんやりと空を仰ぎながらかなでは言葉を続ける。
「だって新くんが火積くんのこと慕ってたし、みんな火積くんのこと大事にしてるってわかったから気にならなかったかなって」
火積の仲間たちは火積を大切にしている。そんな仲間たちを見ていると火積が悪い人には思えなかった。
むしろ話をしてみたら面白いんじゃないか、そう思ったのも事実。
「火積くんって幸せ者なんだなぁって」
「そう言う小日向も・・・じゃないのか?」
「そうかなぁ。・・・・・・あ、でもそうかも。だって、私は火積くんと出会えたわけだし」
どき、と心臓が跳ね上がる。かなでの一言に火積の頬が赤く染まり始めていた。
それは反則だろう、火積は視線を逸らして小さくため息を吐く。
これでは心臓がもたない。かなでの一言はなかなか自分の痛いところに突っついてくる。こそばゆいような、それでいて心地がいいような、何とも言えない想いが火積の中を駆け巡っていた。
「・・・・・・あんたは、俺が予想していないことを口にするな」
「そう?」
楽しそうに笑うかなでを見ていると毒気を抜かれると言うか、何か言う気力が身を潜めてしまう。敵わないよなと胸の内で呟きながら火積は小さく笑っていた。
「あ、ねぇ、火積くん。あの星―――」
夏が終わるまであと少し。
一緒にいられる時間も残りわずか。
せめて、もう少しだけ。
もう少しだけ一緒にいる時間が欲しいと夜空の星に願いながら、二人は空を仰いでいた。
終