告白の行方


いつもなら流せるはずの言葉が流せなかったのはなぜなのか。
如月律は不思議に思いながらもかなでが口にした言葉を思い起こす。
他愛のない会話からこぼれ落ちた本当の気持ち、だった。

よく弟である響也から言われるのは感情表現が乏しいと言うことだと律は記憶する。気づけばよく響也を怒らせていたし、それを見ていたかなでが困った顔をしていたのを律は覚えていた。
何をそんなに怒ってるんだと言うと決まって響也が言うのは『お前のそういうところがムカつくんだよ!』だ。
何に対して怒っているのかわからないとこちらとしても解決のしようがない。言葉を補うようにかなでがかいつまんで説明してくれることがほとんどだった。
だから今回も同じようなことで響也を怒らせ、それに対してかなでが説明してくれたに過ぎない・・・はずだった。

「もう、律くんらしいといえばらしいんだけど」

「そうか?」

「あまり周りを気にしないこととかかな。時々それで響也の方がイラついちゃってるよ。響也にしてみれば歯がゆいんだと思う」

「そういうのは言わせておけばいいだけだろう?」

「それが許せないんだよ、響也は」

いくら律の手に限界があるから出られないと分かっていても律を押す声が多く、事情を知らない人達は無神経に律が出れば良いだろうと言う。
任した相手が自分なのだから尚更頼りなく見えるのだろうことはかなでもわかってはいた。
そう言われないように練習を重ね、ファイナルまでコマを進めたのだが、それに対してもやはり気に入らない一部の教師や生徒からは文句を言われているのはかなでも知っている。
そしてそれを任せた律に対してもまた文句の声が挙がっていた。オケ部の部員達はこのメンバーでやっていることの理由を知っているから良いものの、知らない人にしてみれば納得がいかないのだろう。
それを言わせていることに対して響也は苛々していた。だからまた同じようなケンカを起こす、その繰り返しでかなでは困っていた。いつものことだけど、響也の気持ちも分かる分かなでも難しさを覚えた。
反発しながらも律のことをなんだかんだ言って尊敬してるのはかなでも分かっている。だからこそ歯がゆさを感じるのも知っていた。

「俺は気にならないんだが」

困ったものだと律が言うとかなでは敢えて言葉を継ぐことは避けた。かなでも響也と同じく歯がゆさを感じてはいるのだ。それを口にしないだけで。

「そうやって言えるのは律くんらしいね」

「・・・小日向?」

「まぁ、そんな律くんだから私も好きなんだけどね」

あはは、と笑いながら言うかなでに律は思わず眉間に皺を寄せた。かなでが口にした言葉がやけに気になる。
別に深い意味はないとわかっているはずなのに、律の頭にすとんと入っては焼きついていた。

「どういう、意味なんだ?好きって」

「へ? どういうって・・・・・・?」

いつもなら流されるはずの言葉を律が拾ったことにかなでは驚く。少しずつ知ってもらえればいいと思ってさり気なく言ったつもりだった。
そのはずなのに。

「えっと・・・だって・・・あの・・・・・・」

言いよどむかなでへと律はじっと視線を向ける。その視線を感じたかなでは少し俯きながら顔を赤に染めていた。
何でこう言う時ばかりちゃんと言葉を掬ってしまうんだろう。恋と言う感情を理解しているのだろうか、それとも何を問おうとしているのか。
ぐっとかなでは自分のスカートの裾を掴んで誤魔化してきた気持ちを言うか言うまいか迷っていた。ここで言って断られるのも恐い。
でも、ここで言わなかったら気づいてもらえることはないかもしれない。二つの気持ちの間でかなでは揺れ動く。
そしてかなでが一つの道へと心を決めたのは迷い始めてからすぐのことではあったのだが、かなでにとってはかなり長い時間のように感じてならなかった。

「好きなの、律くんのことが。一人の男の人として律くんが好き」

「小日向・・・・・・」

「あ、でも別にどうしようとかそういうのはないからね。ただ伝えたかっただけだから!律くんの音はもちろん好きだけど、律くん自身が奏でる音だから好きなんだから、誤解しないでね」

慌てながらもどこか冷静に言葉を口にする自分に半分驚きつつも、かなでは逃げたい気持ちでいっぱいだった。
でもここで逃げたらきっとうやむやになってしまうのは明白で。

「友達だとか幼なじみだからとかじゃないからね、律くん」

もう一度確かめるように言うかなでに律は一瞬驚いた表情を見せるもすぐに表情が柔らかになった。この反応はかなでも予想外で。

「律、くん・・・・・・?」

「俺は・・・・・・」

律の唇が開くも、一瞬何を言いかけたのか律自身もわからず戸惑う。何を言おうとしてたのだろうか、自分は。
顔を紅く染めながら律を見つめるかなでの瞳があまりに真っ直ぐで、いつもと同じはずのかなでの瞳がいつもと違って見えた。
それと同時に胸の奥にじわりと広がる何かがあることに律は気づく。

俺は、今何を?
何を言おうとしていたんだ?

『一人の男の人として律くんが好き』

かなでの気持ちが律の中で化学反応を起こしている、そんな混ざり合った気持ちで胸の奥が熱くなった。

『好きってそういう好きじゃないだろう、律。理屈抜きに好きだと思うのが本当の意味での好きなんじゃないのか?』

律の親友である大地が以前言っていた言葉だった。大地は律が告白の意味がわからず首を傾げていると苦笑しながら言っていたのを思い出す。
家族に感じるものとかそう言うのとは違う『好き』。
それがかなでが律へ感じるものなのだとかなでは言う。

じゃあ、自分は?
自分はどうなのだろうか。

ふと問いかけた時に落ちてきたのは素直な音だった。自分の本当の気持ち。
かなでに対する自分の想い、それは―――。


かなでの告白が今までの関係の流れを変える。
変化しつつある気持ちが口にするのはあと数秒後のこと。
告白の行方の答えは律自身が持っていることに気づいた全国学生音楽コンクールファイナル直前の昼休み。
関係が変わるのはもう少しだけ先の話である。



*あとがき*
二度目になります、律かなです。律かなはあまりイメージが沸き難いと言うか、どちらかと言うと律とかなでの兄妹っぽいところが好きなんですよね。なので滅多に書かないのですが、久々に書いてみました。結構やっぱり難しいですね(苦笑)。恋の一進一退で10のお題(天球映写機様)から頂きました。ちなみにこのお題だと1番目になります。律が恋愛と言うものを自覚するところを書いてみたんですけど、これなかなか難しかったです・・・やっぱり律かなは読み専かしら?