古臭いかもしれないけれど、小指と小指を絡めて「約束だよ」と告げたその音が胸の奥に響く。
初めて好きな人と約束したのは、想いを伝えてから数日後の話だった。
「え? 海、ですか?」
「うん。別に海に入ろうっていうわけじゃなくて、海辺を歩きたいなって。夏だったのに夏らしいことしてないなーって思ったからなんだけど」
彼女である小日向かなでが言い出したのは今度の週末に海へ行こうということだった。日曜日は何かと忙しい七海を気遣ってのことだと七海自身も気づく。
そういう優しい人だと言うことは七海も知ってはいたが、改めてかなでの気遣いに感謝をしつつ七海は言葉を継いだ。
「良いですね、海。オレもあなたと一緒に行きたいってそう思ってました」
「本当?」
「はい。小日向さんとならどこにでも行きたいんです。あなたのことをもっと知りたいって・・・そんな図々しい気持ちがあるって言ったら軽蔑しますか?」
「何で? 普通だよ」
かなではきょとんと七海を見つめ、不思議そうに尋ね返した。何を言ってるんだろうと言わんばかりにかなでは小首を傾げる。
一緒の学校ではない分、かなでのことを知ってる面は少ない。かなでと同じ学校でオケ部に所属している幼なじみの水嶋悠人が少し羨ましくも感じる。
もっともっとかなでのことが知りたい。
もっと一緒にいたい。
付き合い始めてその欲がどんどん大きく膨らんでゆく。そんなワガママを言ったらきっと軽蔑されるだろうと思っていたのに、かなでからの答えは意外にあっさりとしたものだった。
「だって私だって七海くんのことを知りたいもの。もちろん知ってるところもたくさんあるけど、まだまだ知らない部分はあるでしょう?」
「そう、ですね。オレもそう思ってました」
小さく笑う七海にかなでは微笑む。当たり前の感情なのだから気にすることないと言うかなでがとても頼もしくもあり、嬉しくもあり、少しだけ年上であることを七海が意識してしまう部分でもあった。
そんなことを言っても仕方がないのに、と肩を透かす。
「たくさん色んなところに行こうね。それでたくさん約束しよう」
「はい、もちろんです」
「七海くんと一緒にいられる時間をもっとたくさん作りたいんだ、私」
欲張りは私の方だよね、と笑うかなでを見ていると、きゅっと胸の奥が熱くなる。そんなことないと首を横に振るとかなでは小さく微笑んだ。
「優しいよね、七海くんって」
「え?」
「すっごく優しいからつい私も甘えちゃう。こんなんじゃダメだなぁって思うんだけど」
もちろん年上だからとかそう言うわけじゃなくて、もっとしっかりしなきゃ七海はどんどんかなでを置いて成長してしまうんじゃないかと思っていた。ただでさえ、時折見せる少年とは違う青年の表情に驚く時がある。
七海自身は自覚していない。だからこそかなでの不安は胸の奥にちり、と焼いて離れなかった。
「そんなことありません!オレなんてもっと甘えてます。あなたが優しいから」
「七海くん・・・・・・」
「約束、しましょう。たくさん一緒の時間を作るって」
ね、と笑う七海を見つめながらかなでは自分の手を七海の前に差し出した。そして小指を立てて促す。
この仕草から導かれる答えは一つ。
「約束、でしょう?」
かなでが笑うと七海は少し照れくさそうに微笑んでかなでの小指に自身の小指を絡めた。
約束の証を小指に託す。昔からたくさんの人達が交わしてきた仕草だった。
「もちろんです」
想いが通じ合ってから初めてのデートの約束を交わす。
週末に二人で海へ行くこと、それは二人だけの秘密の言の葉。
終