「やっと二人きりになったね、かなでちゃん」
「そうだね」
素直に頷きながらかなでは自分よりもうんと背の高い水嶋新を見上げた。賑やかな至誠館メンバーを連れて遊びに来ていたため、なかなか二人きりになれなかったことが新には堪えたらしい。しかも従兄弟の悠人からは迷惑がられる始末。それを見ていたかなではくすくすと笑っていた。
「もー、オレかなでちゃん不足で死んじゃう・・・・・・」
「大げさだなぁ、新くんは」
軽くかなではあしらい気味に返すとそれが不満だった新は後ろからぎゅっと抱きついた。いきなり抱きつかれたかなでは「えっ!?」と声を挙げる。急に後ろから圧し掛かる重さに重い重いと文句を言い始めた。
「新くんでかいんだから、私つぶされちゃうよー!」
「大丈夫、手加減してるから」
「手加減してても苦しいって」
かなでが文句を言うものだからつい面白くなくて新はやってしまうのだが、さすがにやりすぎかと思って力を弱めた。それでも抱きついたままの新にかなでは「新くん?」と尋ねる。新は少し唇を尖らせながら「だってさー」と面白くなさそうに呟いた。
「オレばっかりが好きみたいだし。かなでちゃんにすっごく会いたかったのにみんなに邪魔されるしさー。はぁ、オレ、ついてない・・・・・・」
項垂れる新を背中で感じながらかなではくす、と小さく笑った。そんなことないのになぁとかなでは思う。新ゆえに愛されている部分が結構あるのに、本人には伝わっていないらしい。かなでとて新ばかりが好きなわけじゃないのにと思う。
「私、新くんが好きだよ。この日を楽しみにしてたのは新くんだけじゃないもの。新くん不足だから会えてすっごく嬉しいんだよ」
諭すように言うかなでに新はでもさーとまだ文句があるらしくぶつぶつと何か呟いているがかなでは敢えてそこは聞かないことにした。かなでは言葉を続ける。
「新くんだからって言うのもあるんだよ。可愛がられてるんだと思うけどなぁ。それに二人きりになる時間、ちゃんとあるじゃない」
「そうだけどー」
「それとも私といるのイヤ?」
「それはない! 絶対ないから!!」
「だったら良かった」
くすくすと笑うかなでに新はぎゅっと抱き締めたままでいた。ああ、もう、やっぱりかなでは良いなぁと新は思う。ワガママを言ったところでちゃんと受け入れてくれるし、何よりも。
「かなでちゃんってさ、オレのことよくわかってるなーって思うよ」
「ええ? そう?」
「うん。自分で言うのもなんだけど飽きっぽいのに、ちゃんとこうやってかなでちゃんと遠距離恋愛続けられるんだもん。オレ、かなでちゃんなら好きでいる努力って言うか、そういうこと頑張れるんだよね」
確かにそうなのかなぁとかなでは考えながら新の言葉を反芻する。遠距離恋愛は多少の努力が必要だ。しつこすぎてはもちろんダメだが、途切れない努力と言うものも必要で。
「新くん、マメだからすごいなぁって思うよ。だからかな。新くんがいつも傍にいてくれるような気持ちになるの。もちろんこうやって会えるのが一番だけど、いつもそうじゃないでしょ?でも離れていても何となく新くんが考えてることわかるって心が通じてる証拠じゃない?」
「確かにそうだね。うん、オレも何となくかなでちゃんが考えてることわかるよ。こうしたら喜んでくれるかなとか考えるし」
「ちゃんとお互いを見ようとしてるところが一番大切なんじゃないかなって最近思うんだ、私」
その人自身を認めることはある意味難しい。こうだろうという憶測から見ることが多くなりがちだが、新との恋愛は少し違うような気がした。ちゃんとお互いを見ている、だからこそ伝わるものがあった。
「んじゃ、かなでちゃん」
「なあに、新くん」
「今、オレが考えてることわかる?」
「新くんが考えてること?」
「そ。何を考えてるかってわかるかなーって」
悪戯めいた瞳を浮べて新が言うとかなではそうだねぇとのんびりとした口調で返す。
「手をつなぎたいなーとか? あとお腹空いたからどっか行かないって思ってる?」
「それも確かに思ってるけど、そうじゃなくて」
ぷぅ、と頬を膨らませながら新は言葉を続けた。かなではうそうそと笑いながら本当の言葉を唇で綴る。
「大好き、ってこと。本当は離れたくないなって思ってること」
違う?と尋ねると新はくしゃりと笑顔を浮べる。
「当り、かなでちゃん」
だからさ、と後ろから抱き締めていた腕を離してかなでと向き合うと、自分よりも小さなかなでに合わせて少し屈み、そっと唇を重ねた。
ずっと会いたかった気持ちがキスから伝わりますように。
そっと唇が離れると顔を真っ赤にしたかなでが上目遣いで新を見上げる。少し戸惑っているようにも見えるがそこは敢えて見ないふり。
「えへへ。かわいい、かなでちゃん」
「・・・・・・もう、反則だよ、新くん」
照れくさそうに微笑むかなでにもう一度軽くキスを落とすと、バカと言う声が返ってきた。
甘い甘い二人だけの時間。短いながらの幸せな時は二人の間の距離を縮め、愛しい気持ちが溢れる。
やっぱりこの人を好きになって良かった、そう思いながら手を繋いで夜の横浜の街を肩を並べて歩き始めたのだった。
終