ええい、これはもう一か八かだと思って響也はぎゅっと手を握り締める。
それに驚いたのは幼なじみであり、この間恋人に昇格したばかりの小日向かなでだった。
全国音楽コンクールが終わり、いつもどおりの休日を過ごすつもりだった。だが、かなでからどこかへ出かけようと言い出し、二人で街へと繰り出す。
行く場所はあまりいつもと変わらないのに、街の景色だけがいつもと違って見えた。
それもそのはず、商店街の方でお祭りをしているらしく、かなでは嬉しそうにそれに飛びつく。
「ねぇ、響也。あそこに売ってるジュース飲もうよ」
「いいけど・・・・・・さっき食べたばっかだろ」
「それはそれ、これはこれ」
「別腹ってやつか」
「そういうこと。響也もいる?」
「いい。オレはさっきのでお腹いっぱいになったし」
「そう?んじゃ、ちょっと待ってて。買って来るね!」
足を弾ませてかなでは飲み物を買いに走り始めた。その背中を見送りながら茹だるような暑さに思わず空を仰ぐ。
まだ夏は終わってないってことかと溜息を吐いていると、かなでは飲み物を買って戻って来た。
「響也、おまたせ!」
かなでが買ったのはタピオカ入りのジュースだった。甘そうなジュースを口に含みながら次々に色んな物へと視線を移した。
あ、面白そう、とかおいしそうだなぁと声を挙げる。食べたり飲んだりしているのにまだ入るのかと、ある意味呆れながらもかなでへと視線を向けるとかなでは嬉しそうに響也を見ていた。
「どうした?」
「ん? ちょっと嬉しくて」
「嬉しい?」
「うん。だって響也とこうやってゆっくり遊ぶの久しぶりなんだもん。嬉しいよ。二人だけで出かけるってなかなかないでしょ?」
「あー・・・確かにそうかも」
響也の思い出す限りだと必ず誰かしら一緒にいて二人だけで出かけることはあまりなかった。
そう考えると久しぶりに二人だけで遊んでいるような気がするなと響也は思う。
「私ね、嬉しいんだよ。響也と二人だけで一緒に出かけるの。わくわくするし、ドキドキする」
「え?」
かなでの言葉に響也はぽかんと口を開いた。いきなり何を言い出すんだと驚きのあまり声が出ない。
かなではそんな響也を気にするわけでもなく言葉を続ける。
「ずっとね、そうだったの。響也と一緒にいると安心できるしドキドキしてたんだよ」
知らなかったでしょと笑うかなでを見つめながら胸の奥にじわりと広がる熱い感情に響也はぐっと自分の手を握り締めた。
何だよ、それ。
反則だろ。
声にならない声が響也の胸を掻き毟る。
ああ、もう何で自分の予想に反した言葉を言うのか。
響也は握り締めていた手をかなでの指先へ伸ばすと手を取って歩き始める。
もう、どうにでもなっちまえ。
ある意味出たとこ勝負だ、そう口の中で呟く。
何でこう、無防備すぎるんだよ。
そう、胸の奥から聞こえてきたような気がしたが、敢えてその言葉を聞こえなかったふりをした。
きっとこの手は手を握るだけじゃ物足りないのはわかっているけれど、理性を抑えるためには多分これが一番だから。
急に握られた手に驚きながらかなでは響也を見上げ、視線を向けるものの響也は一向にかなでを見ない。
見れるはずがなかった。
「響也、顔赤い」
「うるせぇ! 誰のせいだ!」
「え? 私なの?」
「お前以外に誰がいるんだよ!」
売り言葉に買い言葉、そんな言葉が聞こえてきそうで。
「久しぶりだね、響也と手を繋ぐの」
嬉しいなぁなんて暢気な声を出すから響也はもう何も言えなかった。
こいつ、ちっともわかってねぇ。
いつだってかなでの言葉に振り回されてる。
今だって、昔だって。
「・・・ったく、何でオレばっか心臓に悪いんだ」
諦めにも似た声で響也は一人文句の言葉を口にしたものの、かなでの耳には届かなかったのか、機嫌良さ気に手を繋ぎながら歩いていた。
多分コイツには一生頭が上がらないんだろうなぁ、そうぼやいた響也の声はかなでの耳には聞こえない。
響也の気持ちに応えるようにかなでは自分よりも大きな手をぎゅっと握り返した。
触れ合う部分が熱を帯びる。
握る手のぬくもりに触れながら響也が小さく笑うとかなでもまた笑って響也を見つめていた。
そんな二人の休日の過ごし方。
終