あなたは誰にでも優しいから


こんなことでやきもちやくなんて私バカだとわかってるのに、思ってしまうのだからどうしようもないとかなでは思う。
でも、どうしてもこの感情を切り離せないのも自分自身が一番わかっていた。

「かなでさん」

一人壁に寄りかかりながら膝を抱えていると後から追いかけてきた八木沢の姿がかなでの視界に映る。
きっと走ってきたのだろう、肩で息をしているのが見えた。思わずきゅっと胸が詰まる。
追いかけてきてくれたことが一番嬉しかった。でもそんな嬉しさもすぐに萎れてしまう。
無言でゆるりと八木沢を見上げると、困った表情を浮かべる八木沢と目が合った。

「・・・・・・かなでさん」

もう一度そのやさしい声で呼ばれ、かなでは唇を引き結んだ。ここで声を紡いだら弱くなりそうで。
そんなかなでを見越したのだろう、八木沢はかなでの目の前まで歩み進めると、ゆっくりとしゃがんでかなでの瞳を伺った。
何においてもまっすぐと見つめる八木沢はすごいとかなでは思う。逸らしたいのに、逸らせない。

「あなたにそんな顔をさせてしまう僕は、最低ですね」

「・・・これ、は」

「どんな理由であれ、あなたにそんな顔をさせるつもりはないんです。だから、僕は自分に腹が立ちます」

自分の手をぎゅっと握り締める八木沢を見つめ、かなではくしゃりと顔を歪めた。
真摯な瞳はかなでの心を強く打つ。
言い訳せずにただ謝る八木沢の姿は双眸に深く焼き付けられた。何、やってるんだろうそう思いながらかなでは唇を軽く噛んだ。
待ち合わせたわけでもなかった。ただ友達であるニアに買い物に出かけようと言われて寮を出たのが最初だった。
近くにあるショッピングモールへ足を運び、ショッピングを楽しんでいると見慣れた姿を見つけて思わず声を掛けようとした時だった。
隣にいる人の存在に気づいてあげかけた手を引っ込める。
そのまま踵を返して歩いていればよかったのに、立ち止まってしまったために見つかってしまった。
それだけじゃない、かなでの様子がおかしいと思ったニアが声をかけたタイミングも悪かった。
あ、と軽く口を開いてお互いを凝視し、どうしようと思った頭がとっさに取った行動は『逃げる』だったのだ。
駆け抜け、逃げ切ったと思ったのにすぐに見つかってしまった。
それもそのはずだ。この寮には半年前に彼もまた滞在していたのだから。
かなでが逃げ込んだ先は自分の住んでいる寮で、しかも自分の部屋へと逃げようと思った時には彼――八木沢が追いついていた。

「・・・・・・一緒にいた人はいいんですか?」

「彼女には用事ができたと言ってきました」

「買い物、してたんでしょ?」

「もう用事は済んだので」

「でも、」

言いかけたかなでの言葉を遮るように八木沢は一つため息を吐きながら言葉を口にする。

「かなでさんは、彼女の方を選んで欲しかったんですか?」

「そういうわけじゃ・・・!」

ない、ですと途切れ途切れに答えると八木沢はぽん、とかなでの頭を軽く撫で、かなでは黙ってそれを見上げる。
八木沢は苦笑いを浮かべてかなでを見つめていた。

「彼女は大学の友人の彼女です。昨日僕の友人である彼氏とケンカをしてしまい、仲直りをするためにプレゼントを選んでたんですよ」

彼も彼女も不器用なんです、小さく笑いながら八木沢が言い、かなでは黙ってその話に耳を傾けていた。
そんな理由でもやはり知らなかったためあまり面白くはなかった。一言だけでも言ってくれていたら違っていたのだろうか。

「でも、僕も軽率でした。あなたには言うべきだった。・・・・・・かなでさん」

「・・・・・・はい」

「ごめんなさい。あなたに悲しい顔をさせたくなかったのにさせてしまった」

ぺこりと謝る姿はまるで項垂れた大型犬のよう。
かなでは唇を引き結びなおして小さなため息を吐く。
八木沢だから大丈夫だと思っている部分もあったし、何よりも自分がこんなことで動揺するなんて思ってもいなかった。
でも一方でどこかで不安もあった。いつだってこの人は優しいから、その優しさに惚れてしまう人がいるんじゃないかと言うこと。
高校の時は良かった。八木沢の通う高校は男子校だったこともあり、あまり心配はしていなかったのに。
近くにいると言うことは嬉しい反面そう言った落とし穴もある。

「・・・・・・ダメですね、私」

「え?」

「だって、全然余裕ないんですもん」

情けないなぁ、もっと心の広い人にならなきゃそうぶつぶつと呟くかなでに八木沢はふわりと微笑んだ。

「僕は嬉しいですよ。かなでさんの周りはたくさんの男性がいます。不安なのは僕の方だったけれど、あなたもそう思ってくれるのは嬉しいと思ってしまうんです」

「・・・・・・それ意地悪です、雪広さん」

唇を尖らせるかなでに八木沢は小さく微笑むとそっと自分の手でかなでの頭を抱き寄せる。
僕はいつも余裕ないんですよ、小さな声で呟いた八木沢の声はどこか照れているようで、そんな八木沢がかわいいと思った自分は意地悪かもしれないと思う。
好きだから生まれてしまう感情。それは仕方のないことで。

「今日はもう何も用事はないんですか?」

「はい。かなでさんは?」

「私もないんです。どうせなら一緒にお菓子、作りませんか?」

「いいですね。そうしましょう」

半年前も同じようなことをして、二人で笑っていたことを思い出す。
あの時とは少しずつかわっていく自分達の関係。
そして知ってゆくお互いの気持ち。
あなたは誰にでも優しいからまた同じように嫉妬をするかもしれないけれど。
でもやっぱり好きだということに変わりはなくて。


「大好きです、雪広さん」


かなでの口にした言葉に顔を真っ赤に染めながら「僕もです」と返した八木沢の表情が可愛くて思わずかなでは笑っていた。





*あとがき*
八木かなで嫉妬をするをメインに書いてみました。上手くそれが伝わればいいと思うのですが、如何せん不安です(苦笑)。
折れるのはいつも八木沢のような気がします。かなでちゃんよりも八木沢。自分の非がある場合ですけど。
二人の名前呼びは配信イベントで見ましたが、その時は「なんじゃこりゃー!」と思わずちゃぶ台返しをしたくなりました。すごいものを公式から投下されたような気がするよ、と言うことで甘いのを書くはずが、気づけばちょっと切ない路線に走っていたと言う罠。
何でこうなったっけ、は書き終えてからいつも思うことです(苦笑)。
この作品のタイトルはシュガーロマンスさんから頂きました。