その日の小日向かなでは日直で、同じように日直に当ったのは如月響也、かなでの幼馴染コンビだった。
最初日誌を書いていたのはかなでだったが、かなでだと遅いと文句を言われて、響也にバトンタッチした。
「・・・・・・って、あとは何があったっけな」
「今日はこんなもんじゃないの?」
「そうだよな。あとはコメントか・・・かなで、何かあるか?」
「特にないよ。響也は?」
「俺もないから困ってるんだって。見てりゃわかるだろ」
「それもそっか」
一人納得するとかなでは隣の席に座って頬杖をつくとじっと響也を見つめた。響也は何となく落ち着かない気持ちになる。
「・・・・・・かなで、じっと見るのはやめろ」
「何で?」
きょとんと大きな瞳を向けるかなでに響也は一つため息を吐いた。見られてるこっちの身にもなれってーの、と言ったところで多分かなでは首を傾げるだけ。
幼馴染ゆえにわかってしまう次の行動パターン。
かなでは仕方ないと諦めて自分の鞄の中をごそごそと探り始めた。次は何をやらかす気だと思いながらも響也は目の前にある日誌とにらめっこを続ける。
結局適当に書くかと思いながらペンを走らせていると、かなでの手が目の前に現れ、思わず響也はぽかんとその手をじっと見た。
「・・・・・・何、やってんだ?」
「何ってアメだけど?」
「いや、だからこの手は何だって聞いてるんだっての」
「アメ、食べないかなーって思って」
「・・・・・・で、目の前にそれを出されて驚くだろうが、普通」
「そうかなぁ?」
のんびりとした口調で答えるかなでに響也は一つため息を吐いた。何を言ってもかなでには敵わないらしい。
響也は困りながらも、「で?」と尋ねる。
「これ、ストロベリー味なんだよ。響也疲れてるかなって」
「え?」
「ちょっとため息多かったから。疲れてるのかなって思って」
かなでが微笑むのを見て、響也は小さく息を吐いた。この幼馴染はなかなか鋭いと思う。
特に微妙な空気を読む能力に長けているような気がするのだが、それを以前榊に言うと榊は苦笑いを浮かべながら「それは響也だからじゃないのか?」と言っていた。
俺だからじゃないだろ、と言ったのだが、榊は相手にせず響也は少し困った記憶がある。言葉通り本当なのだろうか、と。
でも幼馴染であるが故の波長みたいなものもあるんだろうと響也は思っていた。律に対しても同じ事を言えると思っているのだが。
「・・・・・・かなでが思ってるほど疲れちゃいねーよ」
「そう?でもアメ食べると元気になるよ?」
「それはお前だけだと思うんだけどな」
小さな声で呟くもかなでの耳には届かなかったらしく、かなでは机に上半身を寝そべりながら「食べる? 食べない?」と尋ねる。
何となくかなでの気遣いが嬉しかったのもあって少しぶっきらぼうに「食べる」と響也が答えると、にこっと笑ってはい、とかなでは手を差し出した。
響也はそれに倣うようにペンを持っている手と反対の手を出しだすと、「そうじゃなくて」とかなでは唇を尖らせる。
「それだと食べにくいでしょ、私があげるから」
「は?」
「だから、はい、あーん」
あーんって何だよ、と突っ込みたいところだがこうなるとかなでのペースで、響也はちらりと辺りを見回して誰もいないことを確認するとぱくり、かなでの指先にあるアメを食べた。
一瞬だけかなでの指が自分の唇に当ったことに気づいたものの、敢えてそこは気づかないふりをする。
「おいしい?」
「あ、ああ・・・うまい」
「そっかよかった」
えへへ、と微笑むかなでにつられるように響也もまた笑った。
ホント、これで自分の気持ちを知らないかなではある意味最強だよと口の中で呟きながら響也は日誌を書き終える。
「終わったぞ、かなで」
「わーい。じゃあ帰ろう、響也」
「ああ。その前に職員室に寄らないとだろ」
「うん。じゃあ、私日誌置いてくるから待ってて」
「ああ、任せた」
教室を後にしたかなでの足音が廊下にぱたぱたと響く。漸く一人になった響也はふぅ、と一つため息を吐いた。
ある意味罪だろ、かなでの態度はと思うものの昔から同じ事をしてきただろともう一人の自分が突っ込む。
まぁ、そうだよなと自分に言い聞かせて鞄を持って立ち上がると、ドアのところに支倉ニアが立っていることに響也は気づいた。
ぎょっと目を大きく開く。その手にあるのはデジカメ。
「如月、いつの間に小日向とそんな仲になったんだ?」
ふふっと微笑みながらニアは尋ね、響也は「あれは事故だ、事故!」と言い返した。
「そうか?いかにも恋人だといわんばかりの雰囲気だったと思うが?」
「は?お前、まさか・・・・・・」
「素敵な絵だな。ネタ提供に感謝する」
「お、おま・・・そ、それどうする気だよ!」
「何、如月には関係のないことだろう?まぁ、今更な気がしないでもないんだが」
「いや、だからそのデジカメに何を映したんだって言ってるんだろ!お前、使うつもりじゃ・・・・・・」
サーっと響也の顔が青くなる。あんなところ見られた日には穴があったら入りたい気分だ、と響也は思っていた。
「さぁ?それは想像にお任せだな」
「お、お前、それ使ったらただじゃおかないからなー!」
響也の叫びは教室中に響き渡る。ニアは楽しそうに微笑みながらくるりと踵を返した。
一人教室に残された響也はと言うと真っ青になったり真っ赤になったりと忙しい自分の頬を軽く叩く。
そして我に返ると、何でこんなに振り回されなきゃならないんだ、と項垂れていた。
もうニアを追いかける気力さえ残っていない。
「ホント、マジ勘弁しろよ・・・・・・」
響也の叫びは誰に届くのか。
それは神のみぞ知る、だった―――。
終