サクラ舞う下校道
ようやく再開された学校で、いなくなったものの大きさを痛感した。
それでも私、遠見真矢は、この戦いによって忘れることない思い出を胸に秘めながら生きることを決めたから。
今は治療に専念している一騎くんも、少しだけ回復傾向を見せた咲良が帰ってくることを考えると、学校に行こう、そう思って授業を受ける。
授業はしばらく短い時間でということなので、午後の1時過ぎには解放された。
帰りの用意をしながら、目についたのは同じく帰りの用意をしているカノン。
「カノン」
声をかけるとカノンが振り返った。
「真矢」
「ね、一緒に帰ろ?」
「構わないが・・・・・・」
「じゃあ、早く荷物つめちゃおうっか」
そう言って机の中にあるものを鞄の中に入れる。
カノンもどうやら用意はできたようだった。
「じゃ、帰ろっか」
こくりとカノンが頷くと教室の外へと促す。
私は背中でカノンが追ってくることを感じながら歩いていた。
外はひどく心地がいい。春だから、というのもあるけれど学校が始まったこと、が何よりもそれを物語る。
腕を背中の後ろに回して手を絡めた。と、その時サクラの花の香りが鼻を掠めていることに気づいて「あ」と声を漏らす。
「どうした?」
カノンが私を見つめる。
「サクラのにおい」
「サクラの?」
「うん。・・・・・・・あ、ほら」
そうして見上げる先にはサクラの並木道に咲き誇る無数の花びら。
淡いピンク色の花びらをちらつかせて、風に心地良く飛ばされる。
「きれい・・・だ・・・・・・」
「うん。きれい。いいよねー」
にこにこ笑いながら私はカノンを横目で見つめた。
カノンはこのサクラ並木をひどく気に入ったようで、じっとそれを見つめる。
「ねぇ、カノン」
「ん?」
視線はそのままサクラを見つめたままで。お互いに振り返らないまま会話を続ける。
「ここに来て良かった?」
「・・・・・・そうだな。私は、幸せ者だ」
「私も、幸せ者だって思うよ。自分のこと」
「前の私には自分すらどこにもなかった。死ねと言われたら死ぬ、それしかなかった」
「うん」
「でも、ここに来て血は繋がらなくとも『母』ができた・・・・・・嬉しかった」
「カノン・・・・・・」
「一騎や剣司や真矢といった友人もできた・・・・・・前の自分からは考えられない」
「私も、カノンと友達になれて嬉しいよ」
にこっと笑ってカノンを見つめると少しだけ瞳を潤ませるカノンが見えた。
「いなくなった者たちのこと、忘れない。みんな良い人たちばかりだった」
「そうだね」
「総士もいつかは帰ってくる。それまで待つ」
「カノン・・・・・・」
「真矢も総士が早く帰ってくればいい、そう思ってるんだろ?」
「うん、もちろん。今の一騎くんには一番必要な人だから」
すると真面目な顔をしてカノンは言う。
「真矢は一騎のことが好きなのか?」
「・・・・・・そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。んー・・・大切な人には、変わりはないよ?」
「そうか」
「そういうカノンも一騎くんのこと好きでしょ」
少しからかって言うと、俄かに頬を染めて、どもった。
「ば・・・っ!ち、違う。私も真矢と一緒だ!一騎にとって今必要なのは総士だから」
こうやってからかうといつもクールな表情しか見せないカノンの顔が崩れて可笑しい。
と、同時にそんなカノンはかわいいなと思う。
「だよね。あー、皆城くん早く帰ってこないかな」
「同感だ」
カノンはきっぱりと言い捨てる。しごく真面目な顔をして。
二人ともまたサクラを見上げた。はらりと幾枚もの花びらが空を舞う。
白い雪の中にいるような、そんな錯覚さえ覚えるように。
「帰ろっか」
私が言うと小さくカノンは頷いて、見つめていたサクラから視線をずらした。
こうやってカノンと二人でサクラをみつめたこと忘れない。
私はそう思いながら、歩き始めたカノンを追うように足早にその場を後にした。
終
post script
真矢とカノンです。ある意味恋敵な二人なのですが、結局は総士には敵わないと言うところでしょうか(笑)
この二人、かわいくて好きです〜v
ここに翔子や咲良がいたらもっと良かったんだけど・・・・・・。
いつかまたここに咲良が入ってくれたら良いなと思う今日この頃。
平和の中のそんなヒトコマです。
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