泣かない、泣いちゃいけない




大事な友人を送り出した。それは私たちにとってとても辛く、悲しいことだった。




とても可愛い子だった。名前は皆城乙姫。笑顔でいつも私たちを迎えてくれる。
あの皆城先輩の妹だって知った時はすごく驚いた。似てないなぁとも思ったけれど、雰囲気はそっくりだったのを覚えている。
その二人は今、もうここにはいない。
乙姫ちゃんと会話をしたのはもう、かれこれあの戦いが最後だった。
今は私たち、島と共に生き続けている。


それでも時折会いたいなと思う時があった。



『芹ちゃん』


そう乙姫ちゃんが言う、響きが好きだった。
最後に見送った時、私たちは堪えきれずに泣いた。
もう会えないと知ったから。島の一部になるとは言っても、その生身ではもう会えない。
大事な大事な友達だったのに。
短い時間だったけれど、乙姫ちゃんとの思い出はたくさんある。
初めて会った時は、不思議な子って思ったけれど。


「乙姫ちゃん、元気?」


小さな声で呟く。私は元気だよと言うように風が頬を伝った。
さらさらと自分の髪の毛が横に流れるのを感じると、少しだけ笑った。





「里奈、そろそろ行くよ」

移動教室のため、私は里奈を促す。里奈は思ったよりも元気だが、時折淋しそうな顔を見せた。
きっと里奈も同じことを思っている。

『乙姫ちゃんに会いたい』

と。
里奈は乙姫ちゃんが気に入っていた。それは言動から見てとれたから。

「あ、うん」

「ほら、しゃきっとしなさいよ。そんなんじゃ乙姫ちゃんに悪いでしょ」

「そうだけど・・・・・・」

「私たちはあの日から、泣かないって決めたのよ。泣いちゃいけない、だって乙姫ちゃんはそれを望んでないんだから」

「うん」

「ほら、行こう」

「そうだね」

そう言って里奈に歩くよう、促した。
そう、ここで立ち止まってちゃいけない。
泣いちゃいけない、笑顔でいなきゃ。
今は笑ってなんて言えなくても、自然と笑える日がくると信じている。
それをいつも見守っていて欲しいと、乙姫ちゃんのことを想いながら。


大事な友達がこの島の一部へと戻った日。

初めて地下から風が吹いたあの時。


「乙姫ちゃん、見ていてね」


独り言のように呟くと、それに答えるかのように、開いていた窓から風がふわりとなびくのを頬が感じる。
『わかった』と言われたような気がして、少しだけ泣きそうになった。



泣かない、泣いちゃいけない。

大事な友達がそれを望むはずはないから。
いつでもそこにいるとそう言っていたように、私たちをいつも包み込んでいて欲しいと思う。
初めて見せた乙姫ちゃんの涙と、その想いを忘れないように。
それをいつも心に刻んで。




竜宮島にはいつでも優しい風が吹いていた。







post script
乙姫ちゃんの友達、せりちゃんとりなちゃんの話でした。
この二人を書きたいって思ったのは、乙姫ちゃんが「ここにいたい」と泣いた時からでした。初めて言った、自分の想い。若いながらもそれを達観していたはずの乙姫が言った言葉はとても辛かったです。それを見ていた芹と里奈が泣いていたことを思い出します。
二人とも本当に友達だと思っていたからこそ、別れるのが辛かった。
今は乙姫は島の一部となり、優しく包み込む母のようになっていると思います。
最終回、総士と一騎の所も泣けたけど、やっぱりここが最初に泣いたきっかけだったので書きたいなと思っていました。


templates by A Moveable Feast