風、きらめいて
「あ、カノン、お願いがあるんだ」
そう言って一騎が願い出た申し出に私はこくりと頷いていた。
一騎の願いは「外の空気にあたりたい」と言うことだった。私は車椅子を押して庭へと出る。
外は快晴だった。
一騎が目の集中治療を受け初めて数週間が経とうとしていた。
真矢の母によると順調らしい。もうすぐで見えるかもしれないと言っていたのを覚えている。
今日は私だけがお見舞いに来ていた。
と言うのも、剣司は咲良のところだったし、真矢はと言うと姉の弓子の世話をしに行っている。
だから、日中空いていたのは私だけだった。
「今日はカノンだけだなんて珍しいな」と言って一騎は笑っていたのはつい先ほどのこと。
私はお見舞いのリンゴを剥いて一騎に差し出すと、突然「お願いがあるんだ」と一騎は言った。
「気持ち良いな。今日は快晴か?」
「あぁ。快晴だ。雲一つないぞ」
「そうか。どうりで気持ちいい風が吹くもんだな」
「そうだな」
くすっと笑って私は空を眺める。蒼が広がっていた。そう、あの時と同じような空。
今の一騎には見えない。見えた時、この空のことをなんと言うのだろうかと思う。
「カノン、ありがとな」
「え?」
「いつも遠見や剣司達と一緒に来てくれるだろ」
「い、いや・・・別に・・・」
「おかげで余計なことを考えずにすむ。治療に専念できるんだ」
「そ、そうか・・・・・・」
「あぁ、だからありがとう」
「ど・・・どういたしまして」
照れながらも一騎の言っていた『余計なこと』ぐらい何を指すかすぐにわかった。
総士がいなくなってからの一騎は、何かぽっかりと穴が空いたように感じる。
いつも通りに装っていても、何となくわかるのだ。
今の一騎には総士が必要なのだと、改めて痛感するのはこの時だった。
真矢ともそのことで話していたことがあった。
あの二人は私たちには見えない、何か特別な糸があるのと。
真矢は少し淋しげな表情を見せてそう言っていた。
二人の信頼は厚かったからこそなのだと、互いのことを信じている分だけ今の状況は痛かった。
「一騎」
「ん?」
「早く良くなれよ」
「あぁ、わかってる」
「早く良くなって、この外を見て欲しいと思う」
「そっか」
「あぁ。ここは本当に素敵な島だな」
「そうだな」
今度は一騎がくすっと笑って、その空に視点をあわせるように見上げた。
「風、気持ちいいな」
一騎は笑ってそう言うと、私は小さく頷いて「そうだな」と答えた。
風がきらめいて、私たちの間を突き抜けていく。
快晴の空にはぴったりなそよ風だった。
終
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カノンと一騎です。
カノンが特に書きやすくて好き(笑)この子の不器用さが好きなのかもしれない。
一騎は治療に専念しているため、入院中ということにしています。
早く良くなって、総士を見つけて欲しいと思いますね。
それをカノンに言わせてみました(笑)やっぱこの子不器用で好き・・・(笑)
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