生きとし生けるものの幸福







「あっ・・・・・・」

「ほら、俺が言ったとおりだろう?」

「・・・・・・最初からやり直す」

そう言うと父さんは少しだけ笑って、俺を見た。
俺はその顔が釈然としなくて、むっとした表情のまま目の前の作業に戻る。
竜宮島へ戻ってきてから半年以上のことだった。




父さんのやっていることを教えてくれと言ったのは蒼穹作戦の直前、まだ総士がいた時のことだ。
総士を奪還するために俺らは蒼穹作戦を控えていた。
その蒼穹作戦の前日、アルヴィス内にいた父さんに『土の触り方を教えて欲しい』と言った。
すると二つ返事で返って来たのを覚えている。
作戦は成功し、でも総士は一度フェストゥム側へと行くと言い、残った俺は同化された視力の回復の治療に努めた。
視力が回復し、そして俺は総士が帰って来るのを待ちながら俺は土のいじり方を教えてもらう。
父さんの注意を受けながら、俺は毎日土に触れた。
この感触、嫌いじゃない。
何かあたたかいものを感じるから。


生きているということをなぜだか実感するのもこの時間だった。


「母さんがな、よく言ってたんだ」

「父さん?」

何かを思い出したように、少し懐かしいような瞳で窓の外を見つめながら呟くのが横目で見れた。
それでも手だけは動いている。

「土を触れるということは生きている証拠なの、と」

「・・・・・・・・・」

「笑いながら、そう言ってたな」

「父さん・・・・・・」

何とも言い難くなって俺は何も言えなくなる。
何が言いたいのか、俺にはわからなかった。

「あの日、母さんの姿をしたフェストゥムが来ただろ?」

「あ、あぁ・・・・・・」

「最後、こう言ったんだ。『一騎を育ててくれてありがとう、史彦』と」

「・・・・・・え?」

初めて聞く話だった。
あの日以来、母さんのことは何も言わなかったのに。

「母さんは・・・・・・・紅音はまだ、あの中で生きてるのかもしれない。フェストゥムと会話をしているのかもしれないな」

「父さん・・・・・・」

「母さんはフェストゥムとの共存を望んでいた。そう、共に生きる道をな」

「共に、生きる道・・・・・・」

「一騎。総士君は必ず戻ってくる―――ここにいるのはわかっているんだから、きっと戻ってくるだろう」

「・・・・・・うん、俺もそう思う」

「生きている限り、必ず会えると俺はそう思う。――――紅音のようにな」


そう言うと父さんはドアを開けて、外へと出て行った。
俺は部屋にぽつりと残される。


―――生きている限り。


俺は親父の言葉を噛みしめた。
総士は必ず戻ってくる。ただ、今はそれに時間がかかるだけ。
土を触ることで生きているということを実感する。
この空気を肌で感じることで生きていることを嬉しく思う。
生きとし生けるものの幸福とはこう言うことなのだろう。
その中でもやはり足りないものがあった。
総士という存在。俺にとって大事な人。
帰って来ると、そう約束したから。


俺はここにいる。


俺はここで総士を待っているからな。



心の中でかみしめて、俺はまた土をいじり始めた。
土の感触は、あたたかかった。









post script
史彦と一騎です。親子会話は書いてみたかったんですよね。
特に史彦だけにしか知らない、紅音があの時いたのだと言うことを一騎には知らせてないと思ったんです。
時間が経って、その時のあの言葉の意味を考えていた、そのことを一騎に教えることで、総士の帰りを待つ一騎に希望を持たせたかったのだと。
私はそう思いながら書きました。紅音は今もフェストゥムとの共存をしているのではないかと思います。
自分と言う個々の存在がここにはなくても、ちゃんとカタチとして残っているのではと、あの最終回を見ながらそう思いました。


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