ひかり、あふれる道で
桜が舞う季節となり、ふわりと香が鼻に掠める。
季節はゆっくりと過ぎ、ようやく訪れた静かな時を確かめながら生を育んでいる島。
待ち望むそれはゆっくりと開花する。
「おかあさーん! お姉ちゃんが!!」
「真矢、早く弓子を!」
「はいっっ!!」
陣痛が始まり、その場に動けなくなった弓子を真矢が必死で肩を貸して連れ立つ。
その先には母が待っていた。真矢から母へと弓子を預ける。
「真矢、あとは待っていなさい」
他数名の女性が中へと入り、真矢だけがその場に残された。
祈るような手でそのドアの前で待っていた。
もうすぐ芽吹く。
生と言う名の希望が。
数時間経った頃だろう、一向に出てこない姉達を真矢は黙って待っていた。
そこへ一騎の父の文彦や、溝口、そして一騎や剣司たちもやって来た。
「じょうちゃん、まだかい?」
「はい・・・まだ出てこなくて・・・」
「もうすぐだと言っていたかね?」
「多分・・・そうだと思います」
溝口や文彦の質問に真矢は必死で答えた。
本当はどうなっているのか真矢自身が一番知りたい。
と、そのときだった。
生命の芽吹く力強い声が聞こえたのは。
おぎゃあと大きな声で泣いているのが廊下に響き渡った。
真矢は近くにいた一騎たちと顔を合わせて、半分泣きそうな顔をする。
「遠見〜!良かったな!」
最初に声をかけたのは剣司だった。
その後ろで満面の笑みを浮かべているのは一騎とカノン。
溝口達も嬉しそうな顔をしていた。
そこにドアを開ける音がした。
母たちが出てきて「弓子も、子供も無事よ」と言った。
それが、初めて自分が感じた生と言う名の希望だった。
「おねーちゃん」
家の縁側で道生との子供と寝そべっている弓子を真矢は呆れた顔をして見つめた。
「ねっころがりすぎ」
そう容赦のない言葉に弓子が苦笑いをするのが見える。
「まぁ、いいじゃないの。ほら、桜がきれいでしょ?」
そう言われ、庭にある桜の木を見つめる。淡い、ピンク色の花びらが咲き誇っていた。
「ホントだ・・・・・・」
いつも忙しすぎてそんなのも見る余裕がなかったことに真矢は気づいていた。
弓子の横ですやすやと寝入る子供の頬が同じように淡いピンク色を帯びていた。
この陽気が多分その色を帯びさせているんだろうなと真矢は思う。
「道生とね、言ってたの。桜一緒に見ようって。でも叶わなかったわ」
少し淋しそうな瞳で弓子は言う。すると母が顔を出してきた。
「でも、この子がいるわ」
母の言葉に「そうだね」と弓子は頷く。それを見て真矢は生きることの強さを何となく感じていた。
「道生くんが必死で守ってくれた命よ。大事に、育てましょう」
母の言葉に弓子は少しだけ瞳を潤ませた。
生きることの歓びを、この子に伝えたいと弓子が言っていたことを真矢は思い出す。
真矢は桜の花びらの隙間から見える陽射しの先を見つめ、心の中で呟いた。
道生さん、ありがとう
生きることの大切さを再び感じる。
真矢はこの桜の咲き誇る庭でのことを一生忘れることはないんだろうと思った。
母と姉と自分と、そして道生と姉との子供と。
希望はまだあるんだということを再び知ったこの日のことを。
ひかり、あふれる道で――――。
終
post script
遠見一家の話でした。
この話は絶対に書きたかったものの一つです。
道生を亡くした弓子。
でも弓子の胎内に宿した命によって、希望を忘れることなく生きていけるということを知る。
そんな弓子やいつも生と向き合ってきた母と、これからまだまだ色んなことを知らなければならない真矢との話は外せないなと思っています。
色んな辛いことを乗り越えて、子供を育てていって欲しいなと思いました。
子供の性別は不明です。名前もね。それは各々個人で考えた方が楽しいから。
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