たぶん、未定







「・・・・・・絶対にありえない」



呟く言葉に焦りの色さえ浮かべながら、一瞬浮かべるのはあの人の姿。

「何でー? あたしはいいと思うんだけど」

「だって、高崎だよ!? 何であんな奴のどこがいいって思えるわけ?」

高崎―――高崎良二は私たちと一緒のゼミの仲間だった。
S大経済学部経済学科、専攻は国際金融学。
対する私は同じ学科のまたしても同じ専攻で、1年の時からよくしゃべる男友達だった。
ちゅーっといちご・オレを飲みながら首を傾げて由貴は眉間にしわを寄せる。
私が眉間にしわを寄せたいくらいだってば!

「なんで、そもそも夏は高崎くんになると突っかかるわけ?」

「なんでって、それは・・・・・・」

「夏は俺のことが好きだからでーす」

突如として表れた頭上から降る声に、きっと睨みつけた。

「高崎っ!」

「高崎くんっ!」

「おお、こわ。夏っていつもこんな風だもんなー」

鬼みたいだろーなんて由貴に同意を求めながら、そんな二人を見てると余計に腹が立ってきた。
いつもあんたが絡むからでしょ!こんな風になるのは。
夏もとい私、金沢 夏をナメないでよね。
第一いつもノートを見せてあげてるのはどこのどいつだと思って?

「はぁ!? 冗談っ! 何でアンタのことなんか好きにならなきゃいけないわけ?」

「夏ってば素直じゃないなー」

私の言葉は無視かい。
心の中で呟きながら、これ以上相手にしても無駄だと思って話題を変えた。

「で? 今日は何の用?」

だいたいこうやって高崎が現れる時は何かしら頼み事がある時だと理解していた。
だてに1年の時からトモダチやってるわけじゃない。

「さっすが、夏。実はさ、まだマーケティングのレポート出してなくてさ」

「で?」

「手伝ってv」

「・・・・・・・・・」

語尾にハートなんざつけなくてよろしい。
はぁ、とため息をついて上目遣いで高崎を見つめる。
ね、お願い。
そんな顔で私を見るなってば。

「・・・・・・・・・きのとやのスペシャルデザートセット。琴似店限定」

「乗った!」

何で、私こんなにもコイツのこの顔に弱いわけ?
っていうか、単純に頼まれると弱い。
頼りにされると、応えたくなるのが私の性格。
そこんとこ、よくわかってるんだよね、高崎って。

また一つため息をつくと、ゆっくりと席を立つ。

「じゃ、私行くわ。ごめんね、由貴」

「いいよー。どうせこれからバイトだもん」

気にしなくて良いよーって好奇心いっぱいの目で見つめられながら、私は由貴に手を振る。

「ごめんねー、由貴ちゃん。夏、借りてくよ」

この借りはおっきいんだから、と高崎の言葉に心の中で突っ込みつつ、二人で教室を後にした。
3限が始まる20分も前のことだった。






「あー、疲れた」

一言文句を言いながら、高崎はレポートを無事ポストに投函した。
レポート専用のポストの山から、そのレポートを出すための入り口を探すのは結構大変だった。
先生、少しはわかりやすい字にしてください、と高崎がぶつぶつ呟くのを横で聞きながら苦笑いを浮かべる。

「さて、これから行くか」

「どこに?」

「きのとや。琴似店だったよな?」

高崎の一言に思わず口をぱっくり開けたまま、え?とさも言わんばかりの口の大きさで。
むしろその顔に驚いたのか、高崎の方がぷっと吹き出して大いに笑い始めた。

「何でそんなに笑ってるかね」

「いや、今の夏の顔、最高」

あははははと笑ってる姿に、勝手にやってればと言う態度ですたすたと歩き始める。

「待てって。悪かった。きのとや、行こうな?」

まるで子供をあやすみたいに言う高崎の目の奥とばっちり視線が絡んだ。
やばい、と思う。
何かわからないけど、とっさにその言葉が浮かんだ。

「・・・・・・奢ってイタダキマス」

とりあえず手伝っておいて約束を守られないのは癪なので、言葉を述べる。
あー、私ってゲンキンと思うも、やっぱり食べてみたいと言う願望に勝るものはなし。
だって、前からずっと狙ってたんだもん。

「じゃあ、行こうぜ」

そう言って高崎は私の斜め少し前に出るとてくてくと地下鉄までの道を歩き始めた。
夕陽が長い影を作っているのを見つめる。
そういえばと小さな声で高崎が呟くのを、私の耳が捉えた。

「お前、夏休みの予定ってあんの?」

「夏休み?」

「そう、どこか出かけるとか」

「ないよ。多分バイトかな。あとは由貴とどこか遊びに行こうとはいってるけど」

「ふーん、じゃあいいのかも」

「何が?」

高崎のぶつぶつと言う言葉に少しばかり反応する。

「テスト終わったらさ」

「うん」

「夏休みだろ?」

「そうだね」

「少し空いてるんならさ、どっか出かけねぇ?」

「いいよ。他のメンバーは?」

「いない」

「へぇー・・・いないって、いないのっ!?」

思わず大きな声で言葉を返す。
道行く人達は私たちが何をやってるのか気になるのか、じろじろと見ていくのが見えた。

「オレと、夏の二人。悪いか?」

「いや、悪くないけど・・・でも、いつもなら他の人も誘うのに・・・・・・」

「たまにはお前と出かけたいんだよ」

夕陽に染められた顔が振り向くと、影で半分は見えなかった。
一体どんな顔をして言っているのか、大いに興味はあるのだけど。

「嫌か?それとも予定あるか?」

「な、ない。予定なんてなんもないっ!」

慌てて返事をしながらいつにもまして真面目な声に、どきっとなる。
どきって何よ、どきって。

「そ、そうか。じゃあ、スケジュール空けとけよ」

「う、うん」

何どもってるの、私。
高崎が悪いのよ。真面目な声で言うから。
いつもと調子が狂うじゃない。
おちゃらけてばっかりだったのに、急にそんな態度示すから。


今年はなにもないかなーって思ってたのに。
急に予定が入ってきた。
なんで、ドキドキしてるかなんてわからなくて。
私のスケジュールはまだ未定。

そして、私の気持ちも。



たぶん、未定。












+あとがきもといいいわけ+
意識し始めたっていうか、そんな感じが書きたくて書いてみました。
リハビリ中の一作。うん、嫌いじゃないな。
自分にしては随分とかわいらしい話を書いたモンだと思っています。
(このところシリアス多かったし)
こう言うノリ好きです。うーん、続きはあるんだろうか?(激しく疑問)