春近し











湯気の立つあたたかいコップを両手に持ち、雑誌を眺めた。
ホットココアの甘い香りが漂う部屋で、背中をぴとっとくっつける。

「どうした?」

彼もまた雑誌をぺらっとめくりながら背中越しに尋ねてきた。

「んー、何となくこうしたかったんだ」

「そうか」

そう言うとまた彼の手はページを捲る音でかすれた。
いつからだろうか、こうやって部屋でのんびりと過ごすことが多くなったのは。
休日だと言うのに、二人揃ってどちらかの家でのんびりと過ごす。
幾度か巡る季節の中で、こうやって変わらないのは私たちだけかもしれない。
言葉が少ないながらも、こうやって触れることで何となくわかるような気がした。

「ねぇ、透」

「ん?」

「もうすぐ春だね」

「・・・・・・そうだな」

「春になったらお花見、いこっか」

そう言うと、雑誌に向いていた視線をゆっくりと上げて「どうしたんだ?」と透は言う。
春でも花見をしたことがない私たちにとって、それは初めてとも言うべき発言。

「今は寒い冬だけど、春になったら少しは動こうかなーって。ダメだった?」

背中を少し押して言うと、くすっと透は笑ったような気がした。

「いや、珍しいなと思っただけだ」

「そう? 私そんなに動かないような人間に見える?」

「少なくても、冬は、な」

「そう?」

「うん」

「だって、春は変化する季節でしょ」

「まぁな」

透は相槌を打ちながらも、どこか楽しそうに答える。それが少し不思議だったのだけど。

「変化・・・・・・か」

「うん、変化」

少し考える仕草を背中越しに感じて、何を考えているんだろうと思案する。
透の真意はどんな言葉を告げるのか。
少しドキドキしながらその言葉の続きを待った。

「・・・・・・じゃあ、さ。そろそろ俺らの関係も変化しようか」

「は?」

言葉の意味が全く掴めず、背中をくっつけていたその身体をくるりと翻した。
どういう、意味?
彼もまたくるりと私の方へと身体を回してお互い見つめあう形になる。
少しだけ、彼の耳が赤かった。

「だから、そろそろ俺らも変わろうかって言ってるの」

「それはどういう意味?」

「―――――・・・・・・・ってわかるわけないか、ストレートに言うぞ」

「う、うん」

俄かに部屋の中に緊張が走ったのを身体で感じていた。

何?

何を言うつもりなの?

透の双眸にはっきりと私の姿が映し出されるのを見つめた。


「真緒、俺らそろそろケリつけるぞ」

「何を?」

「俺らの関係。このままがいいか?それとも・・・・・・一緒になるか?」

ようやっとここで言葉の意味を理解して、顔を赤らめた。

「一緒が、いい」

顔を赤らめながら決して視線を外すことなく、私はきっぱりとそう告げる。

「俺もだ。・・・・・・俺と結婚してください」

「・・・・・・はい」

頷くと、透の大きな手が私の頭をわしわしと撫でた。
あたたかいその透の大きな手で。

「あー、良かった。これで嫌だって言われたら、俺、立ち直れない」

透の一言に私はくすっと笑って、一言。


「バカ」







外は降り積もる雪をようやく暖かな陽射しが溶かし始めていた。
季節の変化が訪れようとしてる、まさにその時。
私たちの関係にも変化が訪れていた。


冬はやがて終わりを告げ、次の季節へと時を促す。


もう、春はすぐそこまでやって来ていた。
















*初めて書いてみました、プロポーズネタ。
結婚って実は春と秋に多いのです。だから、このタイトルを考えた時に真っ先に浮かびました。
ちょっと鈍い真緒と、のんびり気質の透。二人の関係はようやっと春を迎えたそんな話にしてみました。
私自身、こんな話は全然ないけどねー。ある意味羨ましいです(笑)