雪とピアノ(前)
しんしんと降り積もる雪は、あの頃の自分を思い起こさせる。
高校に入ってもう季節は本格的な冬の到来を告げるように、積雪は積もっていく。
きゅっきゅっと鳴る地面に私の履いているブーツが摩擦を起こしていた。
この音、嫌いじゃない。
好きか嫌いかと問われたら、後者を選ぶだろうと自分でも思う。
冬の匂いがつんと鼻を掠めると再度持っていた傘の柄をもう一度しっかりと握り締める。
高校から真っ直ぐ地下鉄に乗り、降りた先は中島公園。
3歳からピアノを習っているため、制服を着たままこの駅に降りた。自分の家までは一度乗り換えをしなければならない。
レッスン日は月曜日。毎回少し憂鬱になるのは、自分がしっかり弾けるかどうかの心配があるゆえのこと。
終わった後は少し歩いて大通に出ることだってある。そう言う時は大抵先生に褒められた日に限るが。
今日は学校で特別教室の掃除に当たってしまったために、通常よりも遅くこの地に着く。
外はもう真っ暗で、その中に浮かび上がる雪の白さが一段と目立っていた。
今日も積もるのかな。
紺色のコートがいつの間にか雪の白色に染まり始めるのを見て、思わずそう呟く。
今降ってるのは明らかに根雪だった。
センターへと向かうには途中、大きなホテルの前を通る。今日は何かあるのか車の数がやけに多かった。
それとは反対に行き交う人の数は少ない。
その中に黒いコートを上に羽織って前から歩いてくる人に気づいた。
多分高校生かなとぼんやりと思いながら歩いていると、どことなくその人の雰囲気が彼の人を思い起こさせる。
何で、と言いそうになるも前から歩いてくる人の顔はまだ見えない。
でも、雰囲気が似てるな。
そう思った時だった。
ふっとその人の顔がこちらを見たのは。
不意打ちだ。
そう思った。
けれど、違うかもしれない。
いや、まさか。
そんな気持ちになったのは、その人が紛れもなく。
―――――七倉湊太、その人だったから。
ドキン、ドキンと静かに鼓動が波打つ。
聞こえないとは思うけれど、自分の顔が自然と火照っていくのがよくわかった。
雪が静かに私の顔に触れるとすっと水滴へと変化する。
何となく俯き加減に雪の上を歩いた。
少しずつ、少しずつ距離が短くなり、それと同時に自分に気づくのだろうかと言う不安なのかわからない感情が沸き起こる。
どうしよう、でも嬉しい。
気づいて、でも気づかないで。
不安な乙女心はあっちへ行ったりこっちへ来たりと移動する。
彼との距離がもうあと数センチ。
さくさく歩くその足取りは、多分気づいてないだろうなと思う。
あ。
自然に、ごく普通に彼とすれ違う。
少し伸びたのかなと思わせる身長差。
少し髪の毛切ったかなとどこかで思いながら互いの距離はまた一歩ずつ広がった。
気づくわけなんかないよ。
軽く自嘲めいた口調で言葉を吐くと、気を取り直してレッスンへと向かった。
これが、私の。
彼との久しぶりの再会。
多分、もう会うことなんてないだろうなと思いながら。
白い雪は静かにしんしんと積もっていった。